「えっ?『治療に関することは、患者ではなく治療家が決めるべきだ!』と、あるコンサルの方から聞いたんですが、患者さんに選ばせていいんでしょうか?」
これは先日、鍼灸院をされている先生とのオンライン相談で治療家の口から出たセリフ。この先生はせっかく苦労して集客した患者さんが、リピート通院してくれないという悩みを相談してくださいました。治療院の集客はそこそこできているけど、そのあとが続かないという状態だそうな。
そのときに僕がリピートについて回答した内容に冒頭のように驚かれたわけ。
どんな回答に驚いたのか?この記事では、この質問が出た経緯と、僕が考える「治療院の存在意義」まで踏み込んでお伝えします。
ある鍼灸師の先生との会話
冒頭にお話しした「患者さんに選ばせてもいいの?」という質問は、下記のような経緯のなかで出てきたものです。
みなさんは、これを見てどう感じられましたか。
治療院の患者は素人だからと無視していいのか?
治療に関することを患者さんが決めるのか、はたまた治療家が決めるのか。これに対する僕の考えは、「患者さんが決めるべき」です。ただし、これは患者さんの言いなりになれという意味ではありません。
たとえば、こんなことを言ってくる患者さんがいたとします。
「右腰に鍼を3本ほど打っといて。あと左肩だけ強めにマッサージしといて。あとはいいから」
この患者さんに対する対応としては以下の3つが考えらえます
- 「はいわかりました」と患者さんに言われるがままの施術をする
- 「素人は黙っとれ!」と治療家がすべてを決める
- 「なぜそうしたいのか?」を話してもらい最善の施術を話し合って決める
一つずつみていきましょう
①「はいわかりました」と患者さんに言われるがままの施術をする
こういった要望を無条件に聞いてその通りの施術をする。これをしちゃうとリラクゼーションになってしまいます。もちろんリラクゼーションが悪いという意味ではなく、治療院がしたいなら言いなりになるのはまずいという意味です。
なのでリラクゼーシでいいというなら、体に害のない範囲で対応すればいいと思います。そこはどんな治療院がしたいのかの部分なので、僕がとやかくいう問題ではありません。
②「素人は黙っとれ!」と治療家がすべてを決める
どんな施術をするかはこちら(治療家)が決める。要望は受け付けません。という考えの元、なにをするかをすべて治療家の独断できめて施術するパターンです。
この手のタイプの先生はそこそこ多いと思います。そして、繁盛している先生が多いのも特徴です。特に毅然とした態度で対応できる先生の場合は、繁盛する可能性がより高くなります。
③「なぜそうしたいのか?」を話してもらい最善の施術を話し合って決める
3番はまずは患者さんの発言の真意をしっかり話してもらうことから始めます。そうすると真意が見えてくる場合があるからです。
たとえば「疲れてくるといつも右腰と左肩が痛くなる。それ以外はなんともないから、そこだけ治療すればいいと思っている。今の状態をなんとかしてくれるなら、まかせるからなんとかしてくれ」ということがわかってきたりします。
これがわかったのであれば、「こういった状態にあるあなた(患者)に(治療家が考える)鍼治療をすると、(患者に)言われた通りの施術をするのと比べてどんな変化や効果を得られるのか」これらを順番に説明し、納得した上で鍼治療を受けてもらえればいいわけです。
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誰が施術内容を決めているのかというとそれぞれ
- 「はいわかりました」と患者さんに言われるがままの施術をする【患者】
- 「素人は黙っとれ!」と治療家がすべてを決める【治療家】
- 「なぜそうしたいのか?」を話してもらい最善の施術を話し合って決める【最終的には患者】
ということになります。このセクションの冒頭に書いた「患者さんが決めるべき」は、3番の「最終的には患者」が決めるべきを指しています。
2番のタイプも繁盛院が多いなら、それでいいんじゃない?とあなたは思ったかもしれません。
そうです。治療院の集客経営だけを考えるなら、1番から3番のどのタイプでも問題ありません。それぞれのやり方でうまくいっている治療院があるので、経営という面で見ればどれが正解でどれが不正解というものはないんですね。
突き詰めればあなたがどんな治療院を経営したいのか、どんな治療家になりたいのかが重要だからです。
つまりどんなやり方でもいいけど、僕は3番がおすすめという意味です。好み問題といってしまえばそうですが、もう一歩踏み込むと、治療院ってこうあるべきなんじゃないか?という僕の芯にある考えです。
治療院の存在意義がなくなる
今回の記事の内容は、治療院の存在意義そのものに関わっているんじゃないかなと思っています。極論になってしまうかもしれないので、批判もあるかと思います。
治療に関する意思決定において、患者の意思をないがしろにするならば、それはエビデンスレベルの高い治療を機械的に判断してやっておけばいいということにもなります。
例えばエビデンスレベルの高いとされるランダム化比較試験などによって、効果が認められた治療薬があったとします。患者の価値観などが意思決定に必要ないのであれば、その治療薬を使うことが最善の治療ということができます。
こうなった場合、多くの治療院っていらなくなりますよね。いらないはさすがに言い過ぎかもしれませんが、エビデンスレベルの高い低いでいうと、やはり医療機関に負けてしまうことがほとんどだからです。
でも実際には、患者さんはそれぞれ自分の経験や価値観を持っています。薬は使いたくないとか、副作用が怖いとか、入院はしたくないとか、そういった個人の考えを持っているんですね。
そういった個人の価値観を照らし合わせる時、病院のほかにも治療院という選択肢が出てきます。
つまり患者個人の価値観の結果で選択肢に上がったのだから、その価値観による意思決定を否定した時点で治療院の存在価値はなくなると僕は考えています。
治療院の集客経営にも重要
治療院の集客は年々難しくなっています。集客が難しいからといって「仕方がないね」と諦めるわけにはいかないですよね。諦めたらそこで終わりですから。だったらそんな集客難の状態でもあなたの治療院はうまく経営していく必要があります。
その「うまく経営していく」ための手段のひとつとして、今回の記事の内容はヒントになると考えます。
あなたの治療院に来られる患者さんはどんな人ですか?
「病院になんて1回も行ったことがない。体に不調をきたしたら迷わず接骨院や鍼灸院、整体院などの治療院に行く!」なんて人は少数派だと思います。大抵は病院に1度は行っているはずです。病院には行ったけど治らなかった。病院での対応に不満があって来た。病院以外の治療も試したいと思った。という患者さんのはずです。
ではそういった患者さんになにを伝えればいいでしょうか? 病院以外の選択肢としてあなたの治療院ではなにができるのでしょうか?
ここを伝えていくことは治療院集客のひとつの武器になります。そしてそれに共感した患者さんが来院し「一緒に改善させていく」を体験をしたとき、その患者さんはあなたを信頼し真剣に通院してくれるようになります。
「施術は俺様が決める。素人は黙っとれ」な繁盛院が多いと途中に書きました。確かにこれ系の院で成功しているところは多い。
でもこのやり方は先生が持つ雰囲気や人を魅了する能力によるところが多い。そしてこれは訓練してそう簡単にできることではありません。つまり再現性がないんです。
っちゅうことは今からあなたがそれを目指すのはちょっと難易度が高い。だったらそこを目指さずに、患者さんにちゃんと寄り添って決めていくスタイルを目指すのもいいんじゃないの? と僕は思うわけです。
今回の記事に共感する部分があったら、是非そこを目指してください。