鍼灸師の年収は低い?やめとけと言われる3つの理由と開業で稼ぐ道

「鍼灸師 年収」で検索する人は、たぶん2種類いると思います。これから鍼灸師になるかどうか迷っている人と、すでに鍼灸師で「このままの収入でええんかな」と考えている先生です。この記事は主に後者、とくに一人で鍼灸院をやっている先生と、これから開業しようとしている先生に向けて書きます。

最初に僕の考えを書いておきます。鍼灸師の年収は、雇われている限りは低いです。これは厚生労働省の統計でも、業界団体の調査でも同じ傾向が出ています。ただ、開業して経営をちゃんとやれば、収入は雇われのときの数倍になります。僕のクライアントにも、月の売上が30万円台から100万円を超えるまでになった鍼灸師の先生が何人もいます。その一方で、開業しただけだと月10万円台、という調査結果もあります。分かれ目は技術ではなく、経営をやるかどうかです。

僕は治療院専門のコンサルタントで、鍼灸院の先生とも20年近く付き合ってきました。この記事は2018年に書いたものを、2026年時点の統計に差し替えて全面的に書き直しています。

鍼灸師の年収はいくらか。出どころの違う3つの数字を並べます

鍼灸師の年収を調べると、いろんな数字が出てきます。数字がバラバラなのは、それぞれ「誰の年収」を数えているかが違うからです。まず3つの数字を、出どころと一緒に並べますね。

出どころ 数字 誰の数字か
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」 月給31.9万円+年間賞与71.8万円。年収換算で約454万円 従業員10人以上の事業所で働く「その他の保健医療従事者」(はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師などを含む区分)。平均年齢37.6歳
求人サイト(求人ボックス・2026年) 平均年収387万円 正社員の募集条件の集計。実際に払われた額ではない
東洋療法学校協会「第5回 免許取得者の進路状況アンケート調査」 平均月額20.0万円(勤務している人19.8万円、開業している人20.3万円)。10万円未満が20.5% 免許を取って5年以内の人。回答1,993人

鍼灸師の年収を示す3つの数字。厚労省の賃金統計は年収約454万円、求人サイトの集計は約387万円、免許取得5年以内の調査は月額平均20.0万円で、それぞれ誰の年収かが違う

一番上の厚労省の数字は、鍼灸師だけを数えたものではありません。この統計には鍼灸師という職種の区分がなくて、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師と一緒に「その他の保健医療従事者」としてまとめられています。しかも対象は従業員10人以上の事業所なので、一人でやっている鍼灸院や、先生と受付だけの院は入っていません。つまり、比較的大きな職場で働いている人の数字です。

年齢別に見るとこうなります(同じ調査の月給12か月分と年間賞与を足した概算です)。

年齢 年収換算
20〜24歳 約334万円
25〜29歳 約405万円
30〜34歳 約443万円
35〜39歳 約498万円
40〜44歳 約517万円
45〜49歳 約543万円

一方で、一番下の学校協会の調査は、免許を取ってから5年以内の人だけを対象にしています。平均月額20万円は、賞与を含まない月の報酬です。仮に賞与がなければ年収240万円ほどで、10万円未満の人が2割います。この第5回調査(2016年)では、免許を持っていて実務に就いている人の割合が初めて8割を切りました(76.2%)。2021年の第6回調査では8割を少し超えたと報告されていますが、平均の報酬額は第1回(1996年)からほぼ20万円で変わっていません。

3つを合わせると、鍼灸師の年収はだいたいこう読めます。免許を取って数年は年収250〜300万円くらい。30代で300〜400万円台に乗る人が多く、大きな職場に長く勤めれば450万円前後。求人サイトのボリュームゾーンが350〜450万円と言われているのも、この範囲に収まっています。

なお、この数字はすべて雇われている鍼灸師のものです。開業した鍼灸師の年収は、公的な統計には出てきません。開業後の話は後半で書きますね。

「鍼灸師はやめとけ」と言われる理由は3つあります

「鍼灸師 やめとけ」で検索している先生も多いと思います。言われる理由は、僕が見てきた範囲では3つに絞れます。感情論ではなく、数字で確認しますね。

理由1:給料が安いうえに、鍼を打たせてもらえない職場が多い

学校協会の調査で、免許を取って5年以内の人の勤務先を見ると、一番多いのは「はり・きゅう・柔整施術所」で20.3%です。要するに接骨院の併設です。鍼灸専門の施術所に勤めている人は8.0%しかいません。

これは鍼灸師なら誰でも知っていることだと思いますが、接骨院に勤めた鍼灸師の多くは、毎日の仕事が保険の施術の手伝いになります。鍼はたまにしか打たない。教えてくれる先輩もいない。それで手取りが20万円を切る。こういう話を、僕はこれまで何度も聞いてきました。

同じ調査で、免許を持っているのに実務に就いていない人が18.0%います。その理由の1位は「他業種へ勤務」で40.3%です。せっかく資格を取ったのに、4割が別の仕事に移っている。ここが「やめとけ」の一つ目の理由です。

理由2:受ける人は少ないのに、鍼灸師と鍼灸院は増え続けている

鍼灸を1年のうちに受けた人の割合(年間受療率)は、明治国際医療大学の矢野忠氏らの研究班が毎年調べています。2022年度は5.7%でした。2002年度から2012年度までは7.5%前後で推移していたものが、2018年度には4.0%まで落ち、そこから4〜5%台をうろうろしています。あん摩マッサージ指圧の受療率は同じ調査で15.5%なので、鍼灸はその3分の1ほどです。

受ける人が増えていないのに、供給側は増え続けています。厚生労働省の衛生行政報告例から、10年分を抜き出しました。

2014年末 2024年末 10年の増減
就業はり師 108,537人 136,736人 +28,199人(1.26倍)
はり・きゅうを行う施術所 25,445か所 35,494か所 +10,049か所(1.39倍)
(参考)柔道整復の施術所 45,572か所 50,924か所 +5,352か所(1.12倍)

就業はり師は2014年の10.9万人から2024年の13.7万人へ1.26倍、はり・きゅうの施術所は25,445か所から35,494か所へ1.39倍に増えたが、鍼灸の年間受療率は5.7%にとどまる

はり師の国家試験は毎年2,600〜3,100人が合格しています。そして直近の2年(2022年末から2024年末)で、就業はり師は5,250人増えました。同じ期間の合格者は5,769人なので、免許を取った人のほとんどが業界に残って働いている計算です。これは柔道整復師とは違う動きです。柔整は資格を取った人の3割ほどしか業界に残っていないのに対して、鍼灸師は残る。悪いことではないんですが、経営の面から見ると、競争相手が減らないということでもあります。

受療率が上がらない理由については、僕は「鍼灸を知らない人が多い」に尽きると思っています。痛そう、高そう、何に効くか分からない。一般の人が鍼灸に持っている印象は、20年前からあまり変わっていません。

理由3:開業しただけでは、月10万円台という現実がある

ここが一番大事なところです。

学校協会の第5回調査には、開業している人の月の報酬も出ています。免許を取って5年以内で「はり・きゅうの施術所」を開いている人の平均は、月14.8万円です。しかも半分が10万円未満です。あん摩マッサージも併設している施術所で20.6万円、柔整も併設していると31.3万円。鍼灸だけで開業した若い先生が、一番苦しい数字になっています。

この数字を見て「やっぱり鍼灸は食えない」と思う先生もいるでしょう。でも僕の見方は逆で、これは鍼灸が食えないのではなくて、経営をやっていない鍼灸院が多いだけです。看板を出して、ホームページを作って、来た患者さんを一生懸命施術していれば、そのうち紹介で増えていくはず。この感覚で開業して、そのまま月10万円台で止まっている先生が本当に多いんですね。接骨院なら保険という強い集客の道具があるので、それでもなんとかなることがあります。自費の鍼灸院で同じことをやると、誰も来ないですから。

それでも僕は鍼灸師をすすめます。理由は「独立性」と「守備範囲」です

暗い話が続きましたが、僕は治療系の国家資格の中で、鍼灸師が一番有望だと思っています。理由は2つです。

一つ目は独立性です。鍼は、はり師と医師にしかできません。当たり前やと思うかもしれませんが、これは大きいです。マッサージは、あん摩マッサージ指圧師の資格がなくても「リラクゼーション」という名前で街中にいくらでもあります。柔道整復も、自費になれば整体との違いが患者さんには分かりません。でも鍼は道具を使うので、無資格でできる似たものがない。資格の壁に守られている施術は、実は鍼灸だけです。だから大手チェーンも入ってきにくい。資格者を大量に安く雇うことができないからです。

二つ目は守備範囲の広さです。保険が使える6つの症状に限らず、自費であれば、僕のクライアントの鍼灸院でも、慢性の痛みから自律神経の不調、婦人科系の悩みまで、幅広い患者さんに対応しています。国が効果を認めているという意味ではなくて、現実にそういう患者さんが来て、通ってくださっているという意味です。病院に行ったけれど良くならない、という人の受け皿になれる。これは経営から見るとかなり有利な立ち位置です。慢性の症状は通院が長くなりやすいので、経営も安定しやすいですし。

この2つは、あくまで有利な材料です。材料を持っているだけでは年収は上がりません。次はその使い方、つまり開業した鍼灸師の年収がどう決まるかを書きます。

閉院後の夜、待合室のソファで予約帳を見ながら鍼灸院の年収を考える一人院の院長

開業した鍼灸師の年収はこう決まります。年収1000万円の現実的なライン

開業した鍼灸院の年収は、次の式で決まります。

月の売上 = 1回の単価 × 月の来院数

年収(手元に残る額)≒(月の売上 − 経費)× 12

たとえば単価6,000円で月に150人来れば、月の売上は90万円です。一人でやっている院なら経費は家賃を含めて3割前後が多いので、手元に残るのは月60万円ほど、年で700万円強になります。

「鍼灸師 年収1000万」で検索する先生も多いので、そのラインも書いておきます。経費3割で年収1000万円を残すには、月の売上が120万円ほど必要です。単価6,000円なら月200人、週5日なら1日9〜10人です。単価8,000円なら1日7人前後。一人院で無理なく回せる範囲に入っています。実際に僕が主宰する治療家のコミュニティには、一人の鍼灸院で月の売上が100万円を超えている先生が何人もいます。保険の往診をやめて店舗だけにしたら売上が30万円を切り、そこから経営を立て直して100万円前後まで戻した先生。住宅街の長屋の2階で、30〜40万円台から安定して100万円を超えるようになった先生。どちらも、腕が急に上がったわけではありません。やることを変えただけです。

式を見ると分かるとおり、一人院の年収は「単価」と「来院数」の2つでしか動きません。そして来院数は、新規の数とリピートの数に分かれます。この3つのどれかが弱いと、月10万円台で止まります。

雇われから開業へ。年収を上げる現実的な順番

最後に、年収を上げるためにやることを順番に書きます。僕が鍼灸院の先生に実際に伝えていることです。

1. 勤めているうちに、自分の院の軸を決める

どんな患者さんを、どんな施術で、どうしたいのか。これが決まっていない鍼灸院は、患者さんから見て選ぶ理由がありません。「近いから」「安いから」で選ばれる院になると、単価は上げられないです。軸の決め方は鍼灸院の集客にまとめてあるので、開業前に読んでおいてください。

2. 開業前に、集客の準備を終わらせる

理由3で書いたとおり、看板とホームページだけでは自費の鍼灸院に患者さんは来ません。鍼灸院はあはき法の広告制限があるので、整体院のようなチラシは打てないですし。だからこそ、ホームページで何を書くか、地図検索でどう見つけてもらうか、紹介をどう生むかを、開業前に設計しておく必要があります。鍼灸院のホームページで患者を集客する方法も参考にしてください。

3. 問診と通院の説明で、リピートを作る

新規が来ても、1回で終わればまた新規を探すことになります。鍼灸は慢性の症状が多いので、初回の問診で体の状態と通い方をきちんと説明できれば、通ってもらえる可能性は高いです。問診の考え方は治療院の問診はこの4つを意識しろに書いています。

4. 単価を相場に合わせない

学校協会の調査では、開業している若い先生の半分が月10万円未満でした。その多くは、単価が低いか、来院数が少ないか、両方です。周りの鍼灸院に合わせて4,000円にする理由は、実はありません。一人院の時間には上限があるので、単価を決めた時点で年収の上限も決まります。ここは1人治療院の経営を成功させる5つの秘訣で詳しく書いています。

順番はこのとおりです。技術を磨くなという意味ではないです。技術は当然として、それだけでは年収が上がらないのが鍼灸師の現実だ、という話です。

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この記事の要点

  • 雇われている鍼灸師の年収は、免許取得後数年で250〜300万円、30代で300〜400万円台、大きな職場で450万円前後(厚労省・学校協会・求人サイトの3つの数字から)
  • 「やめとけ」と言われる理由は、給料の安さ、受療率5.7%に対して増え続ける鍼灸師と施術所、開業しただけでは月10万円台という3つ
  • それでも鍼灸師が有望なのは、鍼が資格者にしかできない独立性と、慢性症状まで対応できる守備範囲の広さがあるから
  • 開業後の年収は単価×来院数で決まる。経費3割なら、年収1000万円のラインは月の売上120万円前後で、一人院でも届く範囲
  • 順番は、軸を決める → 開業前に集客を設計する → 問診でリピートを作る → 単価を相場に合わせない

この記事で使った数字の出典

・雇われている人の給与:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)別表の「その他の保健医療従事者」(企業規模10人以上・男女計。きまって支給する現金給与額318.6千円、年間賞与その他特別給与額718.3千円、平均年齢37.6歳)。年齢階級別は同調査の第5表。年収換算は月給×12+賞与で筆者が計算 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tstat=000001011429

・求人サイトの平均年収:求人ボックス 給料ナビ「鍼灸師の仕事の平均年収」(2026年時点の募集条件の集計)

・免許取得5年以内の報酬・勤務先・開業状況:公益社団法人東洋療法学校協会「第5回 あん摩マッサージ指圧師・はり師及びきゅう師免許取得者の進路状況アンケート調査報告書」(2016年10月実施・2017年1月発行)https://www.toyoryoho.or.jp/book/an_05.pdf /第6回(2021年10月実施)要約版 https://www.toyoryoho.or.jp/files/files/fl00000016.pdf

・鍼灸の年間受療率:矢野忠氏(明治国際医療大学)らの調査研究班による全国調査(2022年度5.7%、回答1,221人)。鍼灸柔整新聞2023年6月の報道および森ノ宮医療大学鍼灸情報センターの解説による

・就業はり師数・施術所数:厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」表5・表6(各年末現在)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/index.html

・はり師国家試験の合格者数:厚生労働省の各年の合格発表(第31回2,877人、第32回2,892人、第33回3,066人、第34回2,634人)

・鍼は医師とはり師にしかできない:あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律 第1条

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