「整体院を自宅の一室で開業したい」
「鍼灸院をマンションで開業しても、患者さんは来てくれるのか」
こういう相談は、開業前の先生から今もよく受けます。
先に答えを書きます。自宅やマンションの一室でも、ちゃんとやれば患者さんは来ます。僕が主宰する加藤会には、自宅やマンションで開業して月商100万円を超えている先生が何人もいます。ただし、路面店より不利なのは間違いないです。不利を承知のうえで、それを埋める準備をした先生だけがうまくいっています。
この記事では、自宅開業で患者さんが来る条件を、開業前に決めること、保健所の基準、費用、集客の流れ、自宅ならではの落とし穴の順に書きます。整体院・鍼灸院・接骨院のどれにも当てはまる話にしていますが、国家資格の院だけに関わる部分は分けて書いています。
治療院の自宅開業は不利なのか
不利です。ここをぼかしても仕方がないので、はっきり書いておきます。
路面店なら、前を通った人が看板を見て入ってくる、という集客ルートがあります。自宅の一室やマンションには、これがありません。それどころか、そこに治療院があること自体、ほとんどの人に認識してもらえないです。何もしなければ、通りすがりの患者さんはゼロだと思ってください。
もう一つ、「怪しい」という壁があります。マンションの一室で中がどうなっているか分からない院に、初めて行くのは勇気がいります。僕なら嫌です。この不安を消せないと、チラシやホームページを見た人が最後の一歩で止まります。
それでも月商100万円に届いた先生はいる
不利だという前提で、それでもやれている先生の例を2つ出します。
一人は柔道整復師で、完全自費の整体院をマンションの一室で開業した先生です。エレベーターのない3階で、看板も出せない普通のマンション。しかもターゲットは腰痛の方です。どうやって3階まで上がってくるねん、と僕は思いました。開業してからの5か月は月の売上が30万円ぎりぎりでしたが、半年目に月商100万円に届きました。本人いわく、勤めていた保険中心の整骨院と比べて、質のいい患者さんばかりが来るようになったそうです。
もう一人は、自宅の1階で鍼灸院をしている先生です。もともとは保険のみの鍼灸接骨院で、休みなしで働いて月商50万円ほど。それを全部自費に切り替えて、今は平均月商160万円、休みも週休2日になっています。
僕自身のことも書いておくと、25歳で最初に開業した整体院はマンションの一室で、資金50万円で始めて1年で潰しました。場所のせいではなく、単に実力不足でした。自宅やマンションは、場所そのものが成否を決めるのではなく、準備と集客の差がそのまま出る場所なんですね。

自宅開業の前に決めること:保険か自費か
自宅で開業する接骨院・鍼灸院の先生に、最初に決めてほしいのがここです。保険だけでやるのか、保険に自費を足すのか、全部自費にするのか。これで、立地の考え方も集客のやり方も変わります。
僕のスタンスを先に書いておくと、自宅開業で保険中心の接骨院は成り立ちにくいと思っています。柔整師の先生なら僕に言われなくても分かっていることですが、急なけがで接骨院に来る人は減っていて、慢性の痛みを外傷として請求するやり方は制度上できず、徐々に通らなくなってきています。このあたりの数字は整骨院の経営が厳しい本当の理由|2026年7月改定で保険はもう限界に書いたので、ここでは繰り返しません。
自宅開業に限って言うと、もう一つ理由があります。保険の院は「安い、近い、それなりにちゃんとしてそう」で選ばれます。気軽に入れることが最大の武器です。ところが、マンションの一室や住宅街の中の自宅は、その「気軽さ」と真逆なんですね。中が見えない、看板がない、初めての人には入りにくい。保険の院の武器が、場所のせいで使えなくなります。
逆に、自費の院は「高くても、ここに行きたい」という理由で選ばれます。理由があって来る人は、3階まで階段を上がってでも来てくれます。自宅開業は、自費で特徴を出す院のほうが向いている場所です。
もちろん、なんでも外傷にできると割り切れる先生なら保険でもやれるでしょうし、それを止める立場でもないです。ただ、慢性の患者さんに保険を使いたくない、クリーンにやりたいという先生は、自宅で開業するなら最初から自費を柱にしてください。あとから切り替えるのは、開業前に決めるより何倍も大変です。
鍼灸院・接骨院の自宅開業は保健所の基準を先に確認する
ここは国家資格の院だけの話です。整体院には施術所の届出制度がないので、読み飛ばしてもらって構いません。ただし、部屋の条件は整体院でも目安になるので、後で触れます。
鍼灸院と接骨院は、開設後10日以内に保健所へ開設届を出します。そのとき、施術所は厚生労働省令で定める構造設備基準を満たしている必要があります。自宅でも、この基準は変わりません。基準は次の4つです。
- 6.6平方メートル以上の専用の施術室があること
- 3.3平方メートル以上の待合室があること
- 施術室は、床面積の7分の1以上を外気に開放できること(同等の換気装置があればよい)
- 施術に使う器具や手指の消毒設備があること
あはき法の施行規則第25条と、柔道整復師法の施行規則第18条に、同じ内容で書かれています(この記事の最後に出典を載せています)。
自宅で引っかかりやすいのは、「専用の」という部分です。施術室は施術専用の部屋でなければならず、寝室と兼用はできません。待合室も同じで、リビングの一角を待合室と言い張るのは、保健所によって判断が分かれます。玄関を家族と共用する場合や、生活空間との区画の仕方も、保健所ごとに見方が違います。
だから、リフォームや物件契約の前に、平面図を持って管轄の保健所に相談してください。開設届には構造設備の概要と平面図を添えるので、図面はどのみち必要です。先に相談しておけば、工事が終わってから「この間取りでは受理できない」となる事故を防げます。
整体院の先生も、6.6平方メートルの施術室と3.3平方メートルの待合室は、患者さんが安心できる最低限の広さとして目安にしてください。ベッドを置いて先生が動けて、待つ人が座れる。それが自宅でできるかどうかが、最初の判断です。
自宅開業の費用は「店舗資金」だけが減る
自宅開業の最大のメリットは、開業資金を抑えられることです。ただ、ここに落とし穴があります。
僕は開業資金を、店舗資金・広告資金・余剰資金の3つに分けて考えています。地方都市で店舗を借りる一人整体院なら、店舗資金300万円、広告資金20万円×6か月、余剰資金30万円×6か月で、合計600万円くらいが目安です。詳しくは整体院の開業準備と経営を成功させる3ステップに書いています。
自宅で開業すると、このうち減るのは店舗資金だけです。保証金も内装工事もほぼいらないので、ベッドと備品と最低限のリフォームで済みます。でも、広告資金と余剰資金は減りません。むしろ、通りすがりがゼロな分だけ、広告資金は路面店より多めに見ておいたほうがいいです。
自宅開業で失敗する先生の典型は、「安く始められた」という安心感で、広告費まで削ってしまうことです。店舗資金がいらなかったのなら、その分を認知に回してください。それが自宅開業の正しいお金の使い方です。

看板がなくても患者さんが来る集客の流れ
自宅やマンションの集客は、この流れを作ることがすべてです。
知ってもらう → ホームページで確認してもらう → 来院
路面店なら「知ってもらう」と「来院」の間が短いです。自宅開業では、その間にほぼ例外なく「ホームページで確認」が入ります。場所がマンションの一室だと分かれば、なおさらです。「大丈夫かな」という不安を、ホームページで消してもらってから来てもらう。この順番を理解していない先生が、一番苦労します。
ホームページは開業時に用意しておく
だから、ホームページは開業と同時に必要です。開業してから作ればいい、ではないです。最低限の形でもいいので、院の場所と外観、中の写真、先生の顔、どんな症状の人に向いているか、料金、予約の方法。これが見られる状態にしておいてください。
ホームページの役割は、開業時に集客することではなく、他の手段で知ってもらった人の不安を消して成約率を上げることです。特に鍼灸院や接骨院は、チラシに書ける内容に広告制限があるので、ホームページで補う比重がさらに大きくなります。広告制限の中でのチラシの考え方は広告制限がある国家資格者(接骨院・鍼灸院)のチラシ集客に書いています。
地図検索は自宅開業の生命線
「地域名+整体」「地域名+鍼灸」で検索したときに出る地図の枠は、看板のない院にとって一番大きな看板になります。Googleビジネスプロフィールは開業前から準備できるので、写真と説明文と営業時間を揃えて、口コミが集まる状態を先に作っておいてください。やり方は治療院のMEO対策|整体院・整骨院・鍼灸院が自分でやる8つの手順にまとめてあります。
出せる看板は全部出す
通りすがりで集客が見込めないなら看板はいらない、と考える先生がいますが、逆です。「あそこに整体院があるんだ」と知ってもらうだけでも、後で検索してもらえる可能性が生まれます。
マンションなら、1階の道路に面した場所にA型看板やブラックボードが出せるかどうかを、契約前に確認してください。関東で、マンションの4階で整体院をしているクライアントは、1階に置いたボードとそこに付けたチラシだけで、毎月5〜10人の新規患者さんを獲得しています。人通りがある場所だからできた数字ですが、マンションだから無理だと決めつけて何もしないのが一番損です。
自宅なら、玄関先の小さな看板と、道路から見える位置の表示はつけておいてください。チラシやポスティングも同じで、費用を抑えたいなら自分で配ります。配り方は整体院のチラシの作り方|反応がない7つの原因と無料テンプレートを参考にしてください。
「ついでに来られる場所か」は自宅でも考える
自宅だから立地は選べない、と思うかもしれませんが、患者さんの足は考えてください。駐車場はあるか、自転車を置けるか、駅から歩けるか。それと、近くにスーパーや商業施設があるかどうか。
僕が昔やっていた整体院もサロンも、正確に測ってはいませんが、買い物のついでに来る人がかなり多かったです。治療院でも「ついでに通える場所にあるから繁盛している」院はたくさんあります。当の本人は腕だと思っていることが多いですけどね。自宅の場所は動かせなくても、「ついでに来られる理由」を作れないかは考えられます。
自宅開業ならではの落とし穴
ここからは、店舗ではあまり起きなくて、自宅だと起きやすいことです。
落とし穴1:生活感が「怪しさ」を増やす
玄関に家族の靴が並んでいる、施術室から生活音や食事の匂いがする、トイレが家族と共用で生活用品が置いてある。一つひとつは小さいことですが、初めて来た患者さんの「大丈夫かな」を増やします。玄関から施術室までの動線に、生活の気配を出さないことが最低条件です。ホームページに載せる写真も、この動線を実際に撮って、患者さんの目で見てください。
落とし穴2:家族の合意がない
自宅開業は家族の生活の中に他人が入ってくることです。営業時間中は静かにしてもらう、玄関を使わない、といった協力を毎日お願いすることになります。ここを曖昧にしたまま開業すると、売上より先に家の中がぎくしゃくします。開業前に、営業時間・玄関の使い方・音の3つだけでも、家族と具体的に決めておいてください。
落とし穴3:完全予約制にしないと生活が壊れる
自宅開業は、飛び込みの患者さんが来ない代わりに、予約の管理が全部自分に乗ります。完全予約制にして、営業時間と休みを最初に決めてください。「自宅だからいつでも対応できます」は、患者さんには親切に見えて、先生の休みを確実に消します。無断キャンセルの線引きも、開業時に決めておいたほうがあとが楽です。作り方は治療院のキャンセルポリシーの作り方|文例3つと決める5項目に書きました。
落とし穴4:安さで集めてしまう
不利だからと割引で集客を始めると、自宅開業は特に苦しくなります。割引で来た患者さんは傾向としてリピートが悪く、「安いから」で来る人は「安い院」を探し続けるからです。自宅開業の強みは固定費の低さであって、それを値段に反映させる必要はないです。自費で特徴を出し、その価値に合った値段をつけてください。ポータルサイトの安売り集客に頼るかどうかの判断は整体院のホットペッパー集客は割に合う?掲載前に見る5つの基準を参考にしてください。
自宅開業で月商100万円に届いた先生の共通点
最後に、加藤会で自宅やマンションから月商100万円に届いた先生に共通していることを4つにまとめます。
- 自費で特徴を出した。誰にどんな施術を提供する院なのかを開業前に決め、「ここに行きたい理由」を作っている
- 開業前からホームページと地図検索の準備をした。知ってもらう手段と、不安を消す手段を、開業日に間に合わせている
- 問診と説明でリピートを取った。通りすがりがない分、来てくれた一人ひとりに通ってもらう力が売上を決める。ここは治療院の問診はこの4つを意識しろに書いている
- 集客の行動を習慣にした。集客できていない先生の多くは、集客のための行動をほとんどしていない。うまくいく先生は、チラシを配る、投稿する、口コミをお願いする、といった行動が苦もなくできるまで続けている
自宅だから、マンションだからといって、やることの本質が変わるわけではありません。基本は全部一緒です。不利な分だけ、基本を丁寧にやる必要がある、というだけなんですね。
一人治療院なら、自宅やマンションでも月商100万円くらいまでは、そこまで高い壁ではないと僕は感じています。そこまで行ってから店舗を借りるかどうかを考えればいいし、大きくしたくなければ自宅のままで構いません。
自費で特徴を出し、集客とリピートの基本を揃えて、週休2日で月商100万円に届くまでの考え方は、無料の動画セミナーで順を追って話しています。これから自宅で開業する先生は、開業前に一度見ておいてください。
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この記事の要点
- 自宅やマンションの開業は、通りすがりがゼロで「怪しい」という壁がある分だけ不利。それでも準備した先生は月商100万円に届いている
- 接骨院・鍼灸院は、自宅開業なら最初から自費を柱にする。保険の院の武器である「気軽さ」が、自宅では使えない
- 鍼灸院・接骨院は保健所の構造設備基準(専用施術室6.6㎡・待合室3.3㎡・換気・消毒設備)を、リフォームや契約の前に図面で相談する
- 自宅開業で減るのは店舗資金だけ。広告資金と余剰資金は削らない
- 集客は「知ってもらう→ホームページで確認→来院」。ホームページと地図検索を開業日に間に合わせ、出せる看板は全部出す
- 落とし穴は、生活感・家族の合意・予約制・安売りの4つ
この記事で使った資料(2026年9月26日閲覧)
・施術所の構造設備基準(専用の施術室6.6平方メートル以上、待合室3.3平方メートル以上、室面積の7分の1以上の外気開放または換気装置、消毒設備):あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律施行規則 第25条/柔道整復師法施行規則 第18条(e-Gov法令検索・法令APIで条文を確認)
・開設後10日以内の届出:あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律 第9条の2/柔道整復師法 第19条(e-Gov法令検索・法令APIで条文を確認)
・開設届の届出事項(構造設備の概要及び平面図):あはき法施行規則 第22条/柔道整復師法施行規則 第17条
・クライアントの事例(マンション3階の整体院、自宅1階の鍼灸院、マンション4階の整体院の看板集客)と開業資金の目安:セラピストサポート発行のメルマガ、卒業生インタビュー動画、ブログ記事「整体院の開業準備と経営を成功させる3ステップ」(発信者本人の記録。地域は伏せている)
