回数券を用意したものの、いつ、どう切り出せばいいのか分からない。売り込みと思われるのが嫌で、結局レジの横に置いたままになっている先生は多いです。
僕は回数券については肯定派です。ただ、自分が今から一人で整骨院や整体院をやるなら、たぶん使いません。使わなくても通ってもらえるし、回数券を怪しいと感じる患者さんが一定数いるからです。それでもクライアントには選択肢の一つとしてすすめていますし、うまく使っている先生もたくさんいます。
この記事は「使う」と決めた先生に向けて、売り方を書きます。といっても、うまいトークの話ではないです。回数券が売れるかどうかは、提案する順番と、回数券そのものの設計でほぼ決まるからです。順番はこうです。①患者さんの見方を知る ②提案の順番 ③言い方 ④設計 ⑤法律の線 ⑥売ったあと ⑦売らなくていい先生。
なお、回数券は自費メニューのための道具です。保険の施術には使えません。療養費は施術のたびに一部負担金を受け取る仕組みなので、まとめ買いや割引の形が制度に合わないからです。整骨院で回数券を考えるということは、自費を柱にしていく話とセットになります。そのあたりは整骨院の経営が厳しい本当の理由|2026年7月改定で保険はもう限界で書きました。
売り方の前に:患者さんは回数券をどう見ているか
Googleで「整骨院 回数券」と打つと、候補にこう出ます(2026年9月に確認)。
相場/しつこい/断り方/トラブル/返金/クーリングオフ/医療費控除/違法/後悔
売り方を調べている側からすると、なかなかしんどい並びですよね。でも、これが患者さん側の実感です。回数券を「買わされた」と感じた人が、それだけ多いということです。回数券のメリットとデメリットは治療院で回数券を導入するメリット・デメリットにまとめてあるので、ここでは繰り返しません。
売り方を考えるうえで大事なのは、この並びを逆から読むことです。しつこい・断り方・後悔。この3つを起こさなければ、回数券は普通に買ってもらえます。つまり、売り込むほど売れなくなる商品なんですね。
だから僕は、ホームページに「お得な回数券あります」と大きく書くのはすすめていません。それを見て来る人もいるでしょうが、それを見て行くのをやめる人もいます。どちらが多いかは分かりませんが、来院前に見せるメリットは薄いです。回数券は、来院してもらって、通院の必要性に納得してもらったあとに出すものです。
回数券の売り方1:順番は「問診・説明 → 次回予約 → 回数券」
順番はこれだけです。問診と説明をきっちりやる。患者さんが通うと決めて、次回の予約を取る。その直後に回数券の話をする。
よく、次回の予約を確定させる前に回数券の話をされる先生がいます。これはおすすめしません。そのタイミングだと、患者さんの意識が割引率にいくからです。「1割しか安くならへんのか」で終わります。
でも、これが次回の予約を取ったあとだと変わります。説明の段階で「10回くらい通う必要がある」と伝えていて、それに納得して次回の予約を取られたとします。この時点で、患者さんとあなたの間に「10回通う」という仮の合意ができているんですね。そこで「少しでも負担を減らす回数券もありますけど、どうします?」と聞かれると、「どうせ通うなら安いほうにしておくか」になりやすいです。

ここで効いているのは、回数券のお得さではなく、その前の問診と説明です。患者さんの困りごとを聞き、体の状態と、なぜその回数が必要かを説明して、患者さん自身が「通う」と決める。この流れは治療院の問診はこの4つを意識しろと治療院のリピートは問診で「はい」をもらうとうまくいくに書いてあります。
逆に言うと、この下地がない状態で回数券を出すと、説得になります。説得で買ってもらった回数券は、施術の成果が少し出ない時期があるとすぐに揺れます。雨が降ったから、なんとなく気が乗らないから、でキャンセルが出ますし、「買わされた」という不満も残りやすいです。納得して買ってもらった回数券は、多少の停滞期があっても続けてもらえる可能性が高くなります。同じ「買ってもらった」でも、その先が違うんですね。
回数券の売り方2:言い方は短く、選ぶのは患者さん
トークは長くなくていいです。むしろ短いほうがいい。僕がクライアントにすすめている形は、こんな感じです。
さっきお話ししたとおり、10回くらいは通っていただくことになります。まとめてお支払いいただく回数券もあって、その場合は1回あたり◯円安くなります。1回ずつのお支払いでも施術の内容は変わりませんので、ご都合のいいほうを選んでください。
ポイントは3つです。
- 説明した回数と、回数券の回数を一致させる。10回必要と言っておいて5回券をすすめると、話が合わなくなります
- 都度払いでも内容は同じ、と言い切る。回数券を買わないと損をする、という空気を作らないためです
- その場で決めさせない。「次回までに考えておいてください」で引きます。初回で財布を開けさせようとすると、「しつこい」になります
断られたら、それで終わりです。次の来院でもう一度だけ触れるくらいはいいですが、毎回言うのはやめておいたほうがいいです。回数券が売れなくても、通ってもらえれば売上は同じですから。

回数券の売り方3:設計で半分決まる(回数・割引率・有効期限・払い戻し)
売れるかどうかの半分は、売る前の設計で決まっています。決めておくのは4つです。
| 項目 | 決め方の目安 |
|---|---|
| 回数 | 説明で使う通院計画に合わせる。種類は2つまで |
| 割引率 | 1割程度 |
| 有効期限 | 6か月以内。法律の扱いが軽くなる(次章) |
| 払い戻し | 途中でやめたいと言われたときの計算式を決めて、購入時に伝える |
回数は、あなたが説明で使う通院計画に合わせます。10回通う説明をしているなら10回券です。回数券の回数から通院計画を逆算するのは順番が逆です。種類を増やすと選ぶのが面倒になるので、5回と10回のように2つまでにしておくと楽です。
割引率は、よく質問されますが、僕は1割くらいでいいと考えています。僕が運営している加藤会の先生たちも、だいたい1割程度の先生が多いです。それで普通に買ってもらえています。もし「1割では魅力を感じない」と言われたら、それはそれで仕方ないです。回数券ありきで「1回1万5千円、回数券なら1回5千円」のような極端な設計にする院もありますが、通う人は全員回数券を買うことになる特殊なやり方なので、この記事では扱いません。
有効期限は、次の章で書くとおり6か月以内にしておくのがいちばん簡単です。10回券なら、週1回で2か月半、2週に1回でも5か月で使い切れます。
払い戻しは、決めていない院が多いです。でも、途中で引っ越す人も、合わなかったと感じる人もいます。そのときに「返せません」の一点張りだと、冒頭のサジェストの「トラブル」「返金」に加わることになります。「使った回数ぶんを通常料金で計算して、残りをお返しします」のような式を先に決めて、購入時に口頭と書面(紙でもLINEでもかまいません)で伝えておくと、あとが楽です。
回数券の売り方4:法律の線は2本ある
回数券を扱うなら、最低限これだけは知っておいてください。僕は法律の専門家ではないので、条文で確認できた範囲で書きます。細かい判断は専門家に聞いてください。
資金決済法:有効期限が6か月を超えるかどうか
回数券は、資金決済法でいう「前払式支払手段」に当たると考えられます(第3条)。ただし、発行日から6か月以内しか使えないものは、この法律の前払式支払手段の章そのものが適用されません(第4条第2号、施行令第4条第2項)。
6か月を超える期限にした場合でも、すぐに義務が発生するわけではないです。この法律で表示(第13条)や供託(第14条)、払い戻しの制限(第20条)の義務を負う「発行者」は、未使用の残高が基準日に1,000万円を超えて届出をした人を指すからです(第3条第6項・第5条第1項、施行令第6条)。一人院で回数券の未使用残高が1,000万円を超えることは、まずないと思います。
とはいえ、6か月以内にしておけば、この法律を気にしなくてよくなります。期限を長くする理由は、あまりないんですね。もし1年券のようなものを作るなら、未使用残高の管理と、上の条文の確認だけはしておいてください。

特定商取引法:痛みの施術は「特定継続的役務」に入っていない
患者さんの検索に「クーリングオフ」がありました。特定商取引法でクーリングオフや中途解約のルールが決まっているのは「特定継続的役務」という7つの業種で、エステ、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚相手紹介です(施行令別表第四)。痛みや不調の改善を目的とする施術は、この7つに入っていません。
つまり、法律で決まったクーリングオフの義務はありません。だからこそ、前の章の払い戻しルールを自分で決めて示しておく意味があります。決まりがないなら、決まりがないまま揉めるからです。
一つだけ注意点があります。骨盤矯正や小顔を「体型を整える」目的のコースとして売っている場合は、別表第四の1番目(皮膚を清潔にし、美化し、体型を整え、体重を減ずるための施術)に当たる可能性があります。美容目的のコースを扱う先生は、専門家に確認しておいてください。
回数券の売り方5:売ったあとに対応を変えない
ここは売り方の話に見えないかもしれませんが、いちばん大事なところです。
回数券を売ると、その分の売上は確定します。短期的に見れば、回数券を買った人にかける手間を減らして、まだ買っていない人に時間を使うほうが正しいです。でも、これをやると長期的には持たないです。
回数券を買ってくれた患者さんは、「売上が確定した人」ではなく、「次の10回で、あなたを信頼するかどうか決める人」です。10回目が終わったときに、更新してもらえるか、卒業して誰かを紹介してもらえるか、二度と来ないか。それはこの10回の対応で決まります。
回数券を導入している院でよく聞くのが、先払いだと残りの期間はお金をもらっていない感覚になって、施術に気が入らなくなるという話です。もしそうなるなら、回数券はやめたほうがいいです。売上を確定させる道具で施術が雑になったら、本末転倒ですから。
値上げのときに回数券をどう扱うか、という各論は整体院の値上げのタイミングと伝え方|失敗しない3条件と告知文の例文に書いてあります。
回数券を売らなくていい先生
回数券を売ることに抵抗がある、という相談もよく受けます。答えは簡単で、売りたくないなら売らなくていいです。回数券は手段でしかなく、それがなくても普通に繁盛している先生はたくさんいます。
もし「必要なくなるかもしれないものを先に売るのが嫌」という理由なら、商品の定義を変える手もあります。「うちの施術は7回で1セット、ばら売りはしません」という形にすれば、回数券という概念自体がいらなくなります。コース料理と同じで、途中でお腹いっぱいになっても差額は返ってきません。それに納得して買う人だけが来る。自費ならできる設計です。7回は例なので、そこは自分の通院計画に合わせてください。
回数券の売り方でやってはいけないこと
・初回にその場で決めさせる。「今日決めてもらえたら」は、しつこい・後悔の入口です
・ホームページで大きく打ち出す。来院前に回数券を見せると、それで来ない人が出ます
・不安をあおって売る。「今やらないと悪化します」で買ってもらった回数券は、あとで揉めます
・説明の回数と回数券の回数がずれている。10回必要と言って5回券を出さないでください
・払い戻しの式を決めていない。決めていないと、決めていないまま揉めます
・買った人への対応を薄くする。次の更新と紹介は、この10回で決まります
この記事の要点
・回数券は売り込むほど売れない。患者さんの検索候補は「しつこい」「断り方」「後悔」で埋まっている
・順番は、問診・説明 → 次回予約 → 回数券の提案。予約の前に出すと意識が割引率にいく
・言い方は短く。説明した回数と一致させ、都度払いでも内容は同じと言い切り、その場で決めさせない
・設計は回数・割引率(1割程度)・有効期限(6か月以内)・払い戻しの式。売る前に決めておく
・有効期限6か月以内なら資金決済法の前払式支払手段の章は適用外。痛みの施術は特定商取引法の特定継続的役務に入っていない
・売ったあとに対応を変えない。売りたくないなら売らなくていい
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回数券は、問診と説明で患者さんが「通う」と決めたあとに初めて働く道具です。その下地がない院で回数券だけを売ろうとすると、説得になり、買わされた感が残ります。
どんな人を集めて、どう問診し、どう通ってもらうか。その土台になる、一人治療院が体を壊さずに繁盛するためにおさえるべき本質を、無料の動画セミナーで解説しています。メールアドレスの登録だけで見られますので、回数券の前に、そちらを見ておいてください。
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この記事で使った法令の出典
・資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第3条(定義。第6項の「自家型発行者」)、第4条(適用除外)、第5条(自家型発行者の届出)、第13条(情報の提供)、第14条(発行保証金の供託)、第20条(払戻し)。e-Gov法令検索で条文を確認 https://laws.e-gov.go.jp/law/421AC0000000059
・資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)第4条第2項(法第4条第2号の期間は6月)、第6条(基準額は1,000万円)https://laws.e-gov.go.jp/law/422CO0000000019
・特定商取引に関する法律施行令(昭和51年政令第295号)別表第四(特定継続的役務)https://laws.e-gov.go.jp/law/351CO0000000295
・Googleサジェスト「整骨院 回数券」は2026年9月5日に確認
条文の解釈は僕の理解の範囲で書いています。自院の回数券が法律にどう当たるかは、行政書士や弁護士など専門家に確認してください。
