「鍼灸師 きつい」で検索する人の多くは、これから鍼灸師になるかどうか迷っている人ではなく、すでに鍼灸院を開業していて、思っていたよりしんどい、と感じている先生だと僕は思っています。僕のところに相談に来る鍼灸師の先生も、だいたいそうです。開業して2〜3年、月の売上が20万〜40万円で止まっている。予約が埋まらない日は不安で、埋まった日は体がもたない。休みたい日に休めない。
僕は治療院専門のコンサルタントで、鍼灸院の先生とは20年近く付き合ってきました。先に結論を書くと、開業してからのきつさは、鍼灸という資格のせいではありません。院の設計のせいです。新規が来ない、安い料金で数をこなしている、1回で終わっている、保険と往診に頼っている、一人で全部抱えている。この5つのどれかに、たいてい当てはまります。資格のせいなら打つ手はないですが、設計のせいなら直せます。
この記事では、開業した鍼灸師がきつくなる5つの原因を一つずつ見て、そこから抜け出す順番を書きます。月商20万円で止まっていた鍼灸院が、やり方を変えて100万円を超えた話も入れています。
鍼灸師がきついのは資格のせいか?開業後のきつさは院の設計から来る
鍼灸師がきついと言われる話は、2種類に分けて考える必要があります。雇われて働いているときのきつさと、開業してからのきつさです。
雇われのきつさは、給料が上がらない、時間を自分で決められない、鍼を打たせてもらえない、の3つに集約されます。これは鍼灸院を雇う側の売上の構造の問題なので、勤めている限りは変わりにくいです。年収の数字と「やめとけ」と言われる理由は鍼灸師の年収は低い?やめとけと言われる3つの理由と開業で稼ぐ道に書いたので、勤務中の先生はそちらを読んでください。
この記事で扱うのは、開業してからのきつさです。自分で決められる立場になったのに、しんどい。これは資格の問題でも、技術の問題でもなく、院の設計の問題なんですね。僕がこれまで見てきた範囲で、開業した鍼灸師がきつくなる原因は、次の5つに絞れます。

| 原因 | 何が起きているか | 直すところ |
|---|---|---|
| 1. 新規が来ない | 看板とホームページを出して待っている | 院の軸とホームページの中身 |
| 2. 安い料金で数をこなす | 1回4,000円で1日10人以上見ないと回らない | 料金と予約枠の設計 |
| 3. 1回で終わる | 「治ったから来ない」と思っている | 問診と通院の説明 |
| 4. 保険と往診に頼る | 同意書と移動時間に縛られ、単価が上がらない | 自費の店舗施術への比重 |
| 5. 一人で全部抱える | 施術以外の時間がなく、体も休まらない | 稼働率と施術以外の収入 |
一つずつ見ていきます。
原因1:新規が来ない。鍼灸院は、ほかの治療院より新規を集めにくい
これは鍼灸師なら誰でも感じていることだと思いますが、鍼灸院は整体院や接骨院と比べて、新規の患者さんを集めにくいです。僕は本にも書いたんですが、理由は3つあります。
一つ目は認知度です。体の不調があれば、多くの人はまず病院に行きます。次に接骨院か整体院です。鍼灸院は、その候補にそもそも入っていないことが多いんですね。
二つ目はイメージです。少し古い調査ですが、業界誌「医道の日本」が2006年に載せた調査では、鍼灸を受けるつもりがない人の理由として「他の医療で十分」が40.3%、「治療が痛そう(熱そう)」が20.2%、「治療費が高そう」が15.1%、「何にきくかわからない」が13.5%でした。痛そう、高そう、何に効くか分からない。この3つは、20年経った今も、僕が患者さんの側から聞く言葉と変わっていません。
三つ目は法律です。あはき法の広告制限で、看板やチラシに書けることがほとんどありません。整体院のチラシには料金も特徴も患者さんの声も載せられるのに、鍼灸院のチラシには院名と住所と電話番号くらいしか書けない。新規を集める道具が、最初から一つ少ないんです。
この3つがあるので、看板を出してホームページを作れば患者さんが来る、という感覚で開業すると、ほぼ来ません。免許を取って5年以内に鍼灸の施術所を開いた人の平均報酬は月14.8万円で、半分が10万円未満だったという調査もあります(東洋療法学校協会・2016年)。これは鍼灸が食えないのではなくて、来ない前提で設計していない院が多い、ということだと僕は見ています。
新規を集めるには、まず院の軸を決めて、それをホームページの症状ページに落とし込む作業が要ります。やり方は鍼灸院の集客に全部書いたので、この記事では繰り返しません。ここで言いたいのは、新規が来ないのは資格のせいではなく、来る理由を作っていないからだ、ということです。
原因2:安い料金で数をこなす。1回4,000円の鍼灸院は、埋まるほどきつくなる
新規がある程度来るようになっても、きつさが消えない鍼灸院があります。料金が安い院です。
1回4,000円で、予約枠が40分だとします。月商100万円を目指すなら、月に250人の施術が要ります。週休2日で月20日働くなら、1日12〜13人です。40分枠で13人なら、それだけで8時間半を超えます。昼休みも、問診票の整理も、ホームページの更新も、その外側です。これは埋まれば埋まるほど体がもたなくなる設計なんですね。しかも、1人でも減れば売上が下がるので、休む勇気も出ません。
僕は一人治療院の料金を、分単価で考えることをすすめています。営業時間8時間、週休2日で月20日なら、持ち時間は9,600分です。ここに稼働率6割をかけると5,760分になります。6割にするのは、施術以外のことをやる時間が要るのと、8割を超えると通院を計画したい患者さんの予約が取れなくなるからです。月商100万円を5,760分で割ると、1分あたり約174円です。40分枠なら1回約6,900円になります。

ざっくり言うと、週休2日で6割稼働の余裕を持った経営では、分単価が150円を下回ると月商100万円すら厳しくなります。4,000円で40分なら分単価100円です。この料金で開業した鍼灸院は、どれだけ頑張っても、きつさが消えない構造になっています。
料金を上げると患者さんが来なくなる、と思う先生が多いです。でも、原因1で書いたように、鍼灸院を選ぶ人は「近いから」「安いから」だけで選んでいるわけではありません。何に効くか分からない不安を越えて来てくれる人は、自分の悩みに合う院を探している人です。その人に対して、料金を周りの鍼灸院に合わせる理由はないんですね。料金の考え方は整体院の客単価の相場は?調査データで見る現実と上げ方5手順にも書いています。
原因3:1回で終わる。「治ったから来ない」は、たいてい思い込み
鍼灸師の先生と話していて、よく聞く言葉が2つあります。「1回で来なくなったのは、よくなったからだと思う」と「何回も通ってもらうのは申し訳ない」です。僕がこれまで会ってきた、繁盛していない鍼灸院の先生の多くが、この考えを持っていました。
厳しい言い方になりますが、1回で来なくなった患者さんの多くは、よくなったのではなく、あなたの院を見限っています。1回で治ることもあるでしょう。でも、慢性の症状で来た人が1回で全部よくなることは、普通は少ないです。そして、1回でよくなるほどの技術があるなら、1回3万円でも患者さんが並ぶはずです。そうなっていないなら、時間をかけて通ってもらい、しっかり改善させていくのが鍼灸師の仕事だと僕は考えています。
通院してもらうのに必要なのは、売り込みではなく、納得です。初回の問診で患者さんの話を全部聞き出して、その人が自分の体をどう思っているのかを理解したうえで、あなたの見立てと通い方を全部説明する。週2回が必要だと見立てたなら、「週2回来いと言ったら嫌がられるかも」と勝手に決めつけず、そのまま伝える。無理なら次善の策を一緒に考える。これだけで、技術を何も変えずにリピート率が30%から5回目までほぼ100%になった鍼灸院が、僕のクライアントにいます。
考え方は鍼灸院はリピート患者さんがなにより大事と治療院の問診はこの4つを意識しろに書いています。新規を集めるのが難しい鍼灸院だからこそ、来てくれた人に通ってもらうことが、ほかの治療院より効きます。
原因4:保険と往診に頼る。動けば動くほど単価が下がる
鍼灸の保険は、医師の同意書が要ります。そして単価が安いです。同意書を取る手間と、低い単価で、院の売上を作ろうとすると、どうしても数が要ります。往診になると、そこに移動時間が乗ります。1日の持ち時間のうち、施術していない時間がどんどん増えていくんですね。
僕のクライアントに、保険の往診鍼灸を中心にやっていた先生がいました。その先生が店舗だけの形に切り替えたら、売上が月30万円を切りました。子どもの運動会にもまともに参加できず、何かしなければと動いても、何をすればいいか分からず空回りしていたそうです。そこから、院の軸と新規の集め方と問診を立て直して、売上は約100万円まで戻りました。本人が一番よかったと言っていたのは、売上よりも、休みたい日に休めるようになったことです。
保険の往診そのものが悪いわけではないです。ただ、保険は結局、価格で勝負しているのと同じです。同じ施術なら安いほうが選ばれるので、保険の往診とは違う商品にしない限り、自費には移れません。誰に、何を、いくらで提供する院なのか。そこを決めずに保険に乗っていると、きつさは消えないです。保険のみの鍼灸接骨院で月50万円だった先生が、2年かけて完全自費の鍼灸院にして月230万円になった例もあります。時間はかかりますが、道はあります。
原因5:一人で全部抱える。施術以外の時間と、体ひとつの限界
5つ目は、一人院に共通するきつさです。鍼灸院は、院長の体ひとつが売上のすべてです。施術も、予約の管理も、ホームページも、会計も、全部自分です。それなのに予約枠を詰め込むと、施術以外の仕事をやる時間が消えます。夜にホームページを直し、休みの日に技術セミナーに行く。これでは休みがないのと同じです。
そこに、周りの声が乗ってきます。鍼灸師は、ちょっと売上が伸びると、仲間から「金儲けのために治療家をやっているのか」と言われることが、なぜか多いです。値上げをすれば「金の亡者になった」と言われる。僕のクライアントにも、月商40万円から150万円まで伸ばした先生が、仲間の鍼灸師に嫌味を言われ続けた人がいます。ちゃんと施術をして、その対価をもらって何が悪いのか、と僕は思いますが、真面目な先生ほど、ここで心にブレーキがかかります。
体の問題もあります。いつまでも今の体の状態を保てる保証はないし、老いはいずれやってきます。病気をすれば、その月の売上は止まります。だから、きつさを減らす答えは「もっと頑張る」ではなくて、体ひとつに頼らない形を作ることです。予約枠を6割にして施術以外の時間を確保する。単価を上げて、1日に見る人数を減らす。40代以降は、施術以外の収入源を少しずつ持つ。開業しているからこそ、これを自分で決められます。

開業後のきつさから抜け出す順番
5つの原因を見てきました。全部に当てはまる先生もいると思います。だからといって全部を一度に直そうとすると、何も進みません。僕がクライアントにすすめている順番を書きます。
順番1:働き方と料金を先に決める
週に何日休むか、1日何時間院を開けるか、月にいくら売り上げたいか。これを先に決めると、原因2で書いた計算で、1回の料金が逆算で出ます。料金を先に決めないと、新規が増えても休めない院のままです。
順番2:院の軸を決めて、ホームページに落とす
誰が、どんな施術をして、どんな人にぴったりで、その人がどうなれるのか。これを言葉にして、ホームページの症状ページに書きます。鍼灸院はチラシが使えないので、ホームページの中身がそのまま新規の数になります。これは鍼灸院の集客の手順どおりにやってください。
順番3:問診と説明を変えて、来た人に通ってもらう
新規を増やす前に、来てくれた人が通ってくれる状態を作ります。原因3で書いた、話を全部聞く、見立てと通い方を全部伝える、の2つです。ここができていない院に新規を入れても、穴の開いたバケツに水を注ぐのと同じです。リピートの数え方は整体院のリピート率の平均・目安は?計算式と一人院が目指す数字を使ってください。
順番4:保険と往診の比重を下げていく
一気にやめると売上が落ちます。原因4の先生のように、落ちてから立て直すのは苦しいです。自費の店舗施術で通ってくれる患者さんが増えてきた分だけ、保険と往診を減らしていく。この順番が安全です。
順番5:稼働率6割を守って、施術以外の時間を作る
ここまで来ると、予約が埋まり始めます。そこで8割、9割と詰めてしまうと、原因5に戻ります。6割で回る料金になっているはずなので、空いた時間を、ホームページの更新と、既存の患者さんのフォローと、休みに使ってください。
月商20万円で止まっていた鍼灸院は、何を変えたのか
最後に、僕のクライアントの話を一つだけ書きます。山の麓にある自宅の1階で鍼灸院をしている先生です。開業から2年間、月の売上は20万円ほどで止まっていました。立地は悪く、看板も目立たない。技術には自信があったけれど、新規は月に数人で、来ても1回で終わることが多かったそうです。
この先生が変えたのは、技術ではありません。院の軸を決め直して、ホームページを作り込み、初回の問診と説明を変えました。それで売上は100万円を超え、その後は150万円以上で安定しています。立地も、資格も、腕も、変わっていません。変えたのは設計だけです。
僕の塾に来る鍼灸師の先生は、だいたい月商50万円に届いていない先生です。そして、塾に来ても変わらなかった先生もいます。やればできる、とは言いますが、やらなければ変わらない、も本当です。それでも、開業しているあなたには、設計を変える権限があります。雇われていたときにはなかったものです。きついのは資格のせいではない、と僕が言い続けているのは、そういう意味です。
この記事の要点
- 開業してからの鍼灸師のきつさは、資格や技術のせいではなく、院の設計のせい。原因は「新規が来ない」「安い料金で数をこなす」「1回で終わる」「保険と往診に頼る」「一人で全部抱える」の5つ
- 鍼灸院は認知度・イメージ・広告制限の3つで新規を集めにくい。看板とホームページを出して待つ設計では、免許取得5年以内の開業者の半分が月10万円未満という調査のとおりになる
- 週休2日・8時間営業・6割稼働で月商100万円に必要なのは分単価約174円。40分枠で約6,900円。4,000円で40分の料金設計は、埋まるほどきつくなる
- 1回で来なくなった患者さんの多くは、治ったのではなく見限っている。話を全部聞き、見立てと通い方を全部伝えることで、技術を変えずにリピート率が上がった鍼灸院がある
- 保険と往診は価格勝負。自費の店舗施術で通う患者さんが増えた分だけ比重を下げる
- 抜け出す順番は、働き方と料金 → 軸とホームページ → 問診と説明 → 保険の比重を下げる → 稼働率6割を守る
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開業してからきついのは、やる気がないからでも、腕がないからでもありません。何を、どの順番で直せばいいかが分からないまま、目の前の施術に追われているからです。
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この記事で使った数字の出典
- 鍼灸を受けるつもりがない理由:「医道の日本」第751号(2006年5月号)掲載の調査。「受けるつもりはない」と答えた48.6%の人の理由(複数回答)。僕の著書「鍼灸院経営の勝ち方」(2018年)で引用したものを再掲。20年前の調査なので、数字は目安として読んでください
- 免許取得5年以内に鍼灸の施術所を開設した人の報酬:公益社団法人東洋療法学校協会「第5回 免許取得者の進路状況アンケート調査報告書(要約版)」(2016年10月実施)18ページ。平均月額14.8万円、10万円未満50.4% https://www.toyoryoho.or.jp/book/an_05.pdf
- 稼働率6割・分単価の計算と目安は、僕がクライアントにすすめている考え方です。月商100万円の計算は例であって、あなたの院でこうなるという話ではありません
- クライアントの事例(月商20万円から100万円超、往診中心から店舗のみへ切り替えて30万円未満から約100万円、保険のみ鍼灸接骨院から完全自費で月230万円、リピート率30%から5回目までほぼ100%)は、僕の塾の卒業生の実例です。個人が特定できないように院の情報は伏せています。全員がこうなるわけではなく、変わらなかった先生もいます
