「整骨院は儲からない」と検索している先生は、たぶん2種類いると思います。これから開業するかどうかを迷っている人と、すでに開業していて、朝から晩まで働いているのに手元にお金が残らない先生です。この記事は後者、とくに一人でやっている整骨院・接骨院の院長に向けて書きます。
先に僕の考えを書いておきますね。整骨院が儲からないのは、柔道整復師という資格のせいでも、あなたの腕のせいでもありません。単価を制度に決められている保険で売上を作る設計になっているからです。整骨院は本来、仕入れがほとんどなく、利益率の高い商売です。設計を変えれば、一人院でも月商100万円、手元に残る額で年700〜800万円は現実的なラインだと思っています。
僕は治療院専門のコンサルタントで、これまで何百院という接骨院・整骨院に関わってきました。この記事では、一人整骨院の売上と経費と手元に残る額を数字で出したうえで、儲からない院に共通する3つの設計と、利益が残る院に変える順番を書きます。保険制度そのものの話は整骨院の経営が厳しい本当の理由に書いたので、こちらは「お金がどう残るか」に軸足を置きますね。
整骨院は本当に儲からないのか。一人院の売上と利益を数字で出します
「儲からない」という言葉は、売上が少ないという意味でも、忙しいのに残らないという意味でも使われます。整骨院の場合、この2つが同時に起きていることが多いんですね。順番に数字で見ていきます。
保険だけの院の売上には、天井があります
厚生労働省の委員会資料にある柔道整復療養費の総額を、衛生行政報告例の施術所数で割ると、1院あたりの保険の売上が出ます。2022年度の療養費2,747億円を50,916か所で割って、約540万円。月にすると45万円です。ざっくりした割り算で、自費中心の院も分母に入っているので、保険だけでやっている院の実態はもう少し上だと思います。それでも、向きと大きさはこのとおりです。
なぜこんな数字になるのかは、1回あたりの金額を見れば分かります。2026年7月の改定後、打撲・捻挫の後療料は1部位550円です。電療料や罨法料を足し、初検料や再検料を均しても、1回あたりの保険の収入は1,000〜1,500円の範囲に収まります。これは先生なら言われなくても毎日見ている数字ですよね。
1回1,200円で計算すると、月の売上はこうなります。
| 1日の来院数(月22日) | 月の延べ来院数 | 月の保険売上 |
|---|---|---|
| 15人 | 330人 | 約40万円 |
| 25人 | 550人 | 約66万円 |
| 35人 | 770人 | 約92万円 |
1日15人なら月40万円。月商100万円に届かせようと思ったら、1日40人近く診ることになります。一人院で受付も施術も自分でやりながら、それを毎日続けるのは現実的ではありません。保険だけの院の売上に天井があるというのは、こういう意味です。
整骨院の利益率は高い。それでも残らないのは、売上が小さいからです
整骨院の経費は、他の商売に比べてかなり少ないです。仕入れがほとんどなく、売上の大半が自分の手から生まれるからです。一人院で毎月出ていくお金を並べると、だいたいこうなります。
- 家賃(テナントなら10〜15万円。自宅なら0〜数万円)
- 水道光熱費・通信費(2〜3万円)
- 衛生材料・消耗品(2〜3万円)
- 機器のリース・保守、広告、会費、税理士など(3〜10万円)
合計で月20〜30万円に収まる院が多いと思います。月商に対して2〜3割です。ここだけ見ると、たしかに利益率の高い商売なんですね。
問題は、この経費を保険の売上から引いたときの残りです。
| 院の形 | 月の売上 | 月の経費 | 手元に残る額(税引き前) | 年にすると |
|---|---|---|---|---|
| 保険のみ・1日15人 | 40万円 | 20万円 | 20万円 | 240万円 |
| 保険のみ・1日30人 | 79万円 | 25万円 | 54万円 | 650万円 |
| 自費が柱・1日8人×6,000円 | 106万円 | 30万円 | 76万円 | 910万円 |

一番上が、先ほどの平均に近い院です。利益率が5割あっても、売上が40万円なら残るのは20万円。ここから自分の生活費、国民健康保険と年金、所得税を払い、開業時の借入の返済もします。借入の返済は経費に入らないので、利益から払うことになる。「黒字なのにお金がない」のは、たいていこれが原因です。
真ん中の院は、1日30人を回して年650万円です。これだけ働けば、数字の上では食べていけます。ただ、1日30人を毎日続けられる体力と、30人が毎日来てくれる患者さんの数の両方が要ります。一人院でここまで来ている院は、僕の見ている範囲ではそう多くありません。
一番下が、自費を柱にした院です。僕のコミュニティで自費の施術料金をアンケートしたとき、一番多かった区分が6,000〜6,999円でした。その6,000円で1日8人。月商は106万円で、経費を少し多めに見ても月76万円が残ります。保険のみで30人を診る院と比べて、来院数は4分の1、手元に残る額は1.4倍です。
整骨院は儲からない商売ではなく、保険の単価で売上を作ると儲からない商売だ、というのがこの表の意味です。
「整骨院の年収」として出回る数字は、雇われの数字です
検索すると「柔道整復師の平均年収は450万円」という数字が出てきます。出どころは厚生労働省の職業情報提供サイトで、令和7年の賃金構造基本統計調査を加工した454.2万円です。ただしこの統計は、従業員10人以上の事業所で雇われている人の数字で、職業分類もはり師・きゅう師などと一緒の区分です。
同じサイトで、柔道整復師として実際に働いている人に就業形態を聞いた結果を見ると、「自営・フリーランス」と答えた人が83.3%でした。回答は50人ほどの小さな調査ですが、柔道整復師の多数派が開業していることは、先生も肌で分かっていると思います。開業した院長の年収は、どの統計にも出てきません。上の表のように、売上と経費から自分で出すしかないんですね。
儲からない整骨院に共通する3つの設計
数字を出したところで、なぜそうなるかの話をします。何百院と見てきて、儲からない院には共通する設計が3つあります。腕や人柄の話ではなく、設計の話です。
設計1:単価を自分で決められない商品が主力になっている
保険の施術は、料金を厚生労働省が決めます。1部位550円を600円にしたくても、先生にはできません。しかも、その料金は2026年7月の改定で、2部位目に逓減が入り、初検料の取り直しもふさがれました。単価を自分で決められない商品を主力にしている限り、売上は制度の都合で上下します。
主力商品の単価を自分で決められるかどうかは、商売としてかなり大きな違いです。制度の中身と改定の詳細は整骨院の経営が厳しい本当の理由に書いたので、ここでは繰り返しません。
設計2:数で売上を埋める設計になっている
単価が低いと、売上を作るには数を増やすしかありません。1日30人、40人と診る。待合室がいっぱいで、先生は休む間もない。外から見れば繁盛している院ですが、手元には思ったほど残らない。
数で埋める設計の問題は、天井が体力で決まることです。一人院が1日に診られる人数には限りがあって、そこに達したら売上はもう伸びません。しかも、あなたが風邪をひいた日の売上はゼロです。
僕は一人院の稼働率は6割までに抑えるべきだと考えていて、YouTubeやセミナーでもずっとそう言っています。予約がパンパンの院は、患者さんが通いたいときに通えない院でもあるからです。6割の稼働で目標の売上になるように単価を設計する。数で埋める発想とは、順番が逆なんですね。
設計3:固定費と借入を、売上の設計より先に決めている
3つ目は、開業のときに決まってしまっていることが多い設計です。
駅前の広いテナントを借りる。ベッドを4台入れる。物療機器をリースで何台も入れる。受付スタッフを雇う。これらは全部、1日30人、40人が来る前提で決めた固定費です。保険の院はそういう形で作るものだと教わってきた先生も多いと思います。
でも、1日30人が来る保証はどこにもありません。来なければ、固定費だけが毎月出ていきます。売上を先に設計して、それに見合う固定費を決めるのが順番なのに、固定費を先に決めて、それを埋めるために数を追いかける。儲からない院の多くは、ここで逆になっています。
ちなみに、整骨院の倒産の統計に載るのは負債1,000万円以上の院だけですが、閉じる理由の根っこはたいてい同じところにあります。その話は整骨院の廃業率に書きました。

儲かる整骨院の数字はこう作ります。年収の式と目標ライン
ここからは、設計を変えるとどうなるかです。開業した院長の手元に残る額は、次の式で決まります。
手元に残る額(年・税引き前)≒(1回の単価 × 月の来院数 − 月の経費)× 12
変えられるのは、単価と来院数と経費の3つだけです。このうち、保険の院は単価を触れません。だから来院数で稼ぐしかなかった。自費を柱にすると、単価が自分の手に戻ってきます。
僕が一人院の目安にしている数字は、週休2日、1日8時間、稼働率6割です。この条件で月商100万円を作ろうとすると、施術1分あたりの単価は170円ほど必要になります。40分の予約枠なら7,000円弱です。僕は分単価200円を目安にすべきだと考えていて、150円を下回ると月商100万円そのものが厳しくなります。
月商ごとに、手元に残る額の目安を出しておきます。経費は月商の3割で置きました。
| 月商 | 月の経費(3割) | 手元に残る額(月) | 年にすると | 6,000円なら1日何人か |
|---|---|---|---|---|
| 60万円 | 18万円 | 42万円 | 約500万円 | 4〜5人 |
| 100万円 | 30万円 | 70万円 | 約840万円 | 7〜8人 |
| 150万円 | 45万円 | 105万円 | 約1,260万円 | 11〜12人 |
月商100万円で、手元に残る額は年840万円。雇われの平均年収454万円の2倍近くです。しかも1日7〜8人で、週休2日です。
一人院が施術だけで売り上げられるのは、月200〜300万円あたりが限界だと僕は思っています。それ以上の先生もいますが、たいていそのあたりで止まります。逆に言うと、そこまでは一人でも届く範囲です。僕のコミュニティには、稼働率2〜3割で月商100〜150万円を売り上げている先生もいます。新規は月10人以下です。単価と通い方の設計ができていれば、数は要らないんですね。
もちろん、これは経営の面だけを見た話です。安い料金で地域の人を診続けることを使命だと思っている先生が、その使命を曲げる必要はありません。ただ、「儲からない」と検索したということは、今の形に何か引っかかっているはずなので、設計の話をしています。
利益が残る整骨院に変える4つの順番
やることを順番に書きます。上から順にやってください。
順番1:売上を保険と自費に、経費を固定費と変動費に分ける
最初にやるのは、数字を分けることです。直近3か月の売上を、保険と自費に分けて書き出してください。経費は、毎月決まって出ていく固定費(家賃・リース・保険料・会費)と、売上に応じて増減する変動費(衛生材料・広告)に分けます。
これをやると、自分の院が「保険のみ・1日15人」の行にいるのか、「1日30人」の行にいるのかが分かります。そして固定費の額が、月商の何割かも分かる。経営が厳しいと相談に来られる先生に平均単価を聞いて即答できる人は半分もいないんですが、ここが出ていないと、何を直せばいいかが決められません。
順番2:固定費を月商の3割以内に収める
固定費の合計が、今の月商の3割を超えているなら、先にそこを下げます。目標の月商に対してではなく、今の月商に対してです。
家賃は目標月商の1割が僕の目安です。月商100万円を目指すなら10万円まで。使っていないリースの機器、反応のない広告、行っていない団体の会費。数字を出すと、やめていいものが見えてきます。固定費を下げるのは、単価を上げるより先にできて、しかも確実に手元に残る額が増える手です。
順番3:自費メニューの単価と通い方を設計する
固定費が整ったら、単価です。自費メニューを1つ作り、誰のためのメニューで、何分の予約枠で、いくらなのかを決めます。保険の患者さんに自費を勧めるのではなく、最初から自費で来る患者さんの流れを別に作るほうが、実はしんどくないです。この作り方は保険中心の接骨院で自費治療を高単価で売る方法に書きました。
単価と同じくらい大事なのが、通い方です。初回の問診で体の状態と通い方を説明して、納得して通ってもらう。これができると、新規を追いかけ続けなくても来院数が安定します。問診の考え方は治療院の問診はこの4つを意識しろ、回数券を使うなら整骨院の回数券の売り方を読んでください。
順番4:新規集客は最後
順番を間違えやすいのがここです。儲からないと感じたとき、多くの先生がまず新規集客に走ります。でも、単価と通い方が設計できていない院に新規を入れても、数で埋める設計のまま忙しくなるだけです。
単価と通い方ができてから、新規を増やす。その順番なら、増えた新規がそのまま手元に残る額になります。整骨院の集客の順番は整骨院の集客方法、一人院の経営の考え方は1人治療院の経営を成功させる5つの秘訣にまとめてあります。
これから整骨院を開業する先生へ
開業前の先生がここまで読んでくれているなら、一つだけ。事業計画を、保険の売上の前提で作らないでください。保険のパイは8年で3割減っていて、次の改定でも締まる方向は変わりません。固定費と借入を小さくして、自費の単価と通い方を先に設計してから場所を決める。その順番なら、整骨院は十分に儲かる商売です。開業の手順は整体院の開業準備と経営を成功させる3ステップも参考になります。
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整骨院が儲からないのは、柔道整復師だからではありません。保険の単価で売上を作る設計になっているからです。単価を自分の手に戻して、固定費を売上に合わせて、通い方を設計すれば、一人院でも手元に残る額は変わるっちゅうことです。
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この記事の要点
- 保険だけの整骨院の売上は、1院あたり年約540万円。1回1,000〜1,500円の単価では、1日15人で月40万円、月商100万円には1日40人近く要る
- 整骨院の経費は月20〜30万円で利益率は高い。残らないのは売上が小さいからで、借入の返済は利益から払うため「黒字なのにお金がない」が起きる
- 出回っている「柔道整復師の年収454万円」は雇われの数字。柔道整復師の8割は自営で、開業した院長の年収はどの統計にも出てこない
- 儲からない院の設計は3つ。単価を自分で決められない商品が主力・数で埋める・固定費と借入を売上より先に決めている
- 手元に残る額は(単価×来院数−経費)×12。6,000円で1日8人なら月商106万円、年900万円前後が残る。順番は、数字を分ける → 固定費を3割以内に → 単価と通い方 → 新規は最後
この記事で使った数字の出典
・柔道整復療養費の総額(2022年度 2,747億円):厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会 柔道整復療養費検討専門委員会 第32回(2026年1月30日)配布資料「柔道整復療養費の令和8年度改定の基本的考え方(案)について」
・柔道整復の施術所数(2022年末 50,916か所):厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
・2026年7月改定後の料金(後療料550円、2部位目の逓減、初検料の算定制限):厚生労働省 保発0601第4号・第5号、保医発0601第1号(令和8年6月1日付・同年7月1日施行)
・柔道整復師の賃金(454.2万円・令和7年賃金構造基本統計調査の加工値)、就業形態(自営・フリーランス83.3%)、求人賃金(27.8万円・令和7年度):厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「柔道整復師」 https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/(職業分類は「柔道整復師」等に対応。あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師と同じ区分の数字)
・自費の施術料金の最多区分(6,000〜6,999円):僕のコミュニティ(加藤会)で行ったアンケート
・1回あたりの保険収入1,000〜1,500円、月の経費20〜30万円、各表の試算:僕の試算。例示の数字は丸めている。税金・社会保険料・借入の返済は「手元に残る額」から払う
